『キッチンの神様』の中根克監督が考える幸せのあり方

2020/10/27

キッチンメーカーで働く人々と依頼人の老夫婦の交流を描いた『キッチンの神様』
第9回栃木・蔵の街かど映画祭では技能賞を受賞した作品でもあります。
家族や夫婦のあり方、そして仕事との向き合い方について考えさせられる温かく優しい作品です。
この作品の監督、中根克さんに『あしたのSHOW』収録後、お話をお伺いしました。

・調子が狂った?収録はアットホームな雰囲気

収録を終えられて、中根監督に感想をお伺いすると
「こんなに本格的にやると思ってなかったので・・普段撮る側で撮られることはないんで、調子が狂いました。」
と開口一番に出てきました。
とはいえども、スタジオ内は和気あいあいとした様子で、監督御本人がおっしゃられるような調子が狂った様子は全く感じられませんでした。
それもそのはず。
実は『あしたのSHOW』の撮影スタッフたちと監督は、以前、違う映画の現場で一緒だったことがあり、顔見知りだったそうです。
そういう状況もあり、収録はいつにも増してアットホームな雰囲気で行われました。
また『あしたのSHOW』について、どう思うかとお伺いすると
「作品だけを観ただけじゃわからないこともあります。セールスポイントやアピールポイントが伝えられるのはありがたいです。いろんな人の目に触れるという機会が増えるという点ではいい。機会があるならば積極的に行っていきたいですね。」
とお話してくださいました。
「積極的に行っていきたい」という言葉の通り、実は最近、別の配信サイトでも配信オファーを頂いたそうです。
これからもいろいろな場面で中根監督作品が見れるかもしれません。

・コロナ禍の中でのチャンスと苦労

『あしたのSHOW』を始めとしたネット配信番組やプラットフォームについても、監督は「ある意味、チャンス」とおっしゃいます。
「コロナウィルスの影響で、よりネットを見る機会が増えているのは確か。本来なら見ない方にも作品が届けられる。ある意味、チャンスだと思います。」

通常、インディーズ映画が公開できる場は限られてきます。
そのためコロナウィルスの騒動の前から、ネット配信の活用については注目を集めていました。
しかし、今年のコロナウィルス感染防止のためにステイホーム期間によって、状況は大きく変わります。
今まで映画に関心を持っていなかった人も、ステイホームのために自宅で普段は見ない映画や動画を鑑賞しはじめ、ハマってしまったという人が増えてきたのです。
実際に大手配信サイトのNetflixの加入者4月から6月の間で25%増収したくらいです。
そう。監督がおっしゃる通り、映画製作者にとって「ある意味、チャンス」の時期到来といって違いありません。
とはいえども、コロナウィルスが映画・映像業界にプラスの影響だけを与えているわけではありません。
それ以上にマイナスな影響が生じているのも事実です。
実際に、監督もコロナウィルス渦の中の撮影は、様々な制限がかかり苦労しているとお話してくださいました。
実際に今までと違い。撮影に入るまでの段取りが増え、その分、制作側の仕事も増えます。
だからといって、現場でクラスターが発生したら一大事です。
撮影によっては密な環境になってしまうこともあり、出演者もナーバスになってしまうことも多いのだとか。

「やりにくくなっているけど、工夫で何とか乗り越えていかないといけない」
と、監督は現状を悲観するのでなく、前向きに考え行動に移そうとされています。

・やりたいことをやるのが幸せ

監督は34歳の時にシステムエンジニアから、映像業界に転身されました。
映画好きだったお父様の影響で、監督自身も幼い頃から映画好きだったそうです。
007シリーズなどを劇場で観ながら「自分もこんな映画が取れたらいいな」という漠然とした憧れを持っていた中根少年でしたが、進路を決める際に「仕事と趣味は分けたほうがいい」というアドバイスをもらいます。
それからは、そのアドバイスに従い「仕事と趣味を分けた」生活を送っていました。
しかし34歳の時に
「夢を諦めて惰性の人生を描くより、たとえ失敗してでもやりたいことをやって、それで失敗したとしても納得がいく」
そんな思いから、一発発起してサラリーマン生活から映像業界に転身。
親戚や家族からの反対は、もちろんあったそうです。
安定した生活を捨てるのには、結構な思い切りが必要だったし、覚悟も必要だったという監督。
しかし、今ではその決断を「全然後悔していないし、よかったと思う。」と微笑みながら話されます。
「やりたいことをやる。やりたいことをやるのが幸せ」
番組の中でも、監督がおっしゃられた言葉なのですが、インタビュー中にも何度もおっしゃっていました。
この言葉に励まされる人も多いのではないでしょうか。

また、監督は作り手としても、自分の人生を豊かにする必要があると言います。
「自分の人生をリッチにしていかないと作品に出ちゃう。自分の日常もできれば感動できるような人生を歩かないとダメ。好きなもの道だからこそドラマチック。」
映画に限らず表現者ならば誰でも、とても胸に響く言葉ですよね。

・映画という沼にどっぷりとハマってみた今、思うこと

「自分としてはどっぷり沼にハマってみた」という監督に、今後のインディーズ映画界に必要だと思うことを聞いてみました。

「それぞれの監督が交流できる場、横のつながりが必要。この業界は常に人手不足です。
より融通がきくより対応できるように、自主映画のスタッフを集めているサイトなどをもっと活用していくべき。また、一つの作品に関わったら必ず知らない人に出会うので、少しずつネットワークを広めていくことが大切。地道でいいから、そういう活動が大事だと思います。」

と話された後に「インディーズ映画の世界では良いことが少ない」と苦笑い。
『カメラを止めるな!』のようにヒットすれば話は別ですが、大体の映画は採算が取れず赤字になっているのが現実です。
それでも続けているのは、やはり好きだから。
むしろ「好きな気持ちだけでやっている。でも、苦しい思いもしている。」という監督の言葉に、改めて、業界の厳しい現実を思い知らされました。
また、インタビュー中にクラウドファンディングについても話題になりました。
監督自身は、映画制作におけるクラウドファンディングは人に負い目を背負うことになるので、ちょっと引っかかるところがあり、まだ使ったことがないそうです。

「クラウドファンディングではなく、むしろ作品の配信で、なおかつ収入が入ればよりベターになると思うし、制作側と配信者、そして視聴者がみんなウィンウィンになるのではないだろうか」というのが監督のご意見です。
インディーズ映画の劣悪な環境を変えるためにも、そして「好きな気持ちだけでやっている」映画関係者たちが、その気持ちをこれ以上悪用をされないためにも、それぞれのつながりを強くし、そして作品の配信など新しいことにチャレンジすべき時が来たのかもしれません。

・優しさの中にある覚悟
番組中はもちろんのこと、打ち合わせ中やインタビュー中も、中根監督は物腰がやわらく優しさに溢れていました。
しかし、言葉の節々に「映画の世界で生きて行く」という覚悟も伺えました。
「人生がリッチでないと作品に出てしまう」と語られた監督。
きっとこれからも妥協することなく、ドラマチックな人生を歩み、素敵な作品を生み出してくれることでしょう。
中根克監督の次回作も、乞うご期待です。