冷静さの中にも垣間見れる前向きさ 注目の新鋭・佐近圭太郎監督

2020/10/14

9月11日に『東京バタフライ』で劇場長編デビューした佐近圭太郎監督。
今年注目の新鋭監督の1人です。
今回『あしたのSHOW』では、佐近監督の卒業制作作品である『家族の風景』を紹介させて頂きました。
時間の流れによって微妙に変化していった家族の姿が静かに描かれた作品になっています。

・『あしたのSHOW』は熱い!
収録前の打ち合わせで『あしたのSHOW』の詳細を興味深そうに聞いていた佐近監督。
収録後に改めて番組の感想をお伺いしてみると
「すごいありがたい。(インディーズ映画や短編映画は)尺的にも知名度的にもかけづらい。無料 
 でありがたいし、意義がある。」
と真っ直ぐに伝えてくださったのが印象的でした。

本編放送の前後に話すという番組のスタイルについても、本編に補足して話せる点や作品を見た人からすぐに話が聞けるという点が面白いし、作品を気に入ってくれた人もこのスタイルは楽しめると思うと話してくださり、番組のスタイルに太鼓判をいただけました。

そして『あしたのSHOW』のコンセプトに話が移ると「本当に熱い!」と笑顔で一言。
「場を作るのは一番大変だけど、一番大事。それを作るっていうのは並大抵のことじゃないと思うので、純粋に素晴らしいなと思います。(配信というスタイルも)手軽に見れるし、より多くの人に気軽に見てもらえて有効だと思います。」
佐近監督のおっしゃる通り「場を作る」のは大変なことです。
『あしたのSHOW』では「その場」をすでに用意しています。
多くの方に番組を活用して頂きたいというのが『あしたのSHOW』の想いの一つ。
ぜひ、我こそはという映画製作者の方々のご応募をお待ちしております。

・憧れた映画の世界で一度はボロボロに
すでに助監督としても様々な作品に携わり、2020年9月に長編デビューした佐近監督ですが、お話をお伺いすると、中学2年生の時には日芸に入ると決め、実際に日芸卒業後には、現場で働き始めるといった具合に、着実に目標や夢に向かって歩いてこられた印象をお見受けしました。

そんな佐近監督に、映画に興味を持ったきっかけや時期をお伺いすると、真っ先に出てきたワードが「金曜ロードショー」。
小学生の頃から金曜ロードショーが大好きだったそうです。
また土曜日にはお父様と映画館で最新映画を観ることが多く、そういったことがきっかけとなり映画に少しずつ興味を持ち始め、中学2年生で日芸の進学を決意し、5年後にしっかりと実現されます。
日芸に決めたのはクドカンに憧れていたことも大きかったそうです。

日芸卒業後には東映の撮影所で助監として刑事ドラマの現場で働き始めますが、1年後には心身ともにボロボロな状態になり実家に戻る羽目になってしまいます。
現場の労働環境が、監督の心身をボロボロになってしまった原因の1つでした。
今でこそ、映画業界でも働き方や労働環境は見直され始めていますが、佐近監督が働き始めた当時はパワハラや暴力、劣悪な労働環境が当たり前という空気が業界内にまだ残っていた時代だったのです。

ボロボロの状況から復活した監督から、この「映画業界」特有の問題について興味深いお話が聞けました。
「(問題の原因として)助監、演出部フリーランスが多い。属するものがない。コンプライアン  
 スがないのも一つの要因。なくさないといけない。」
監督がおっしゃられるとおり、今、製作会社やプロダクションに属さずフリーランスとして働く映画製作者が増えています。
フリーランスは自由に働けるメリットがある一方で、雇用スタイルや労働環境のトラブルに巻き込まれやすいのも事実です。

現在は、Tokyo New Cinemaという映画制作プロダクションに所属している佐近監督。
ご自身のことを「自分はプロダクションに入ったサラリーマン」と笑っておっしゃられます。
しかし、自分のプロダクションの現場では絶対にそんなことが起きてはいけないという責任を感じているとお話ししてくださった姿は、とても頼もしいものでした。

・プロデューサーを経験して気付いたこと
最近、監督業以外にも初めて映画のプロデューサーを経験したという監督ですが、その際、映画の製作費の分配や予算書と向き合うことの重要性を実感されたそうです。
その上で必要な予算を集める方法や知識、そして自分でできないのなら、他に誰かできる人を見つける方法などを大学や専門学校などで教えてくれるようになれば、業界もいろいろと変わるのではないかと、映画とお金の話について盛り上がりました。

「ビジネスとして成立していない場合が多い。労働の対価としてのお金が大事というか。それがすごく少ない。自分でも責任感じたりする。最低限でも暮らしていけるお金を払える体制を作らなきゃという思いはあるけど難しい。」
と冷静に現状を語りながらも
「業界を嘆くよりも、自分ができることから始めないと」と前向きに話される佐近監督の姿にはとても感銘を受けました。

・自分自身をも見定めながら、次の作品を作っていきたい
佐近監督に「これからどんな映画を作っていきたいですか」という質問に対して、慎重に言葉を選びながら、こんなことをお話してくださいました。

「自分がやるべきこと、自分ができることは何かを見定めて、そこから外れないものをやりた
 い。結局見てくれた人の心に触れて、その人の日々の生活が少しでも楽になるというか、これを
 糧にちょっと明日頑張ってみようかと映画館を出た後に思ってもらえる作品を作りたいです。

 自分に何ができるのかという部分を見誤らないようにして、求められるものを作るんじゃない 
 んですけど、なんか作りたいものを作るというよりも、何をすべきかみたいなところを見定め 
 て作っていきたい。作るということはそれだけ責任があるということなんだなぁとやっぱ思っ
 たんで、下手なものを作るくらいなら、多分撮らないほうがいいくらいという覚悟で。
 自分自身もやるべき人間なのか次の作品とかあれば、見定めてやっていきたいと思います。」

収録中もインタビュー中も、笑顔で丁寧に答えてくださった佐近監督。
しかし、お話をしているとやわらかな笑顔の中でも、冷静かつ真剣に映画や自分というものに向き合っていられるのが感じられました。
ご自身と作品を見定められた上で完成するであろう次回作がとても楽しみです。