土地で物語を紡ぐ一ノ瀬晶監督。最新作の製作が始動中!

2020/12/03

川越を舞台にした、ある一組の夫婦の物語『おわりはじまり』。
主人公と一緒に宝探しをしているような気分になれる作品です。
今回は『おわりはじまり』の監督・一ノ瀬晶さんにお話をお伺いしました。

・「あしたのSHOW」の試みにリスペクト
今回の収録には、主演を務められた小林千里さんもご一緒に参加されたこともあり、和気あいあいとした和やかな雰囲気の中での収録となりました。
収録を終えた監督に感想をお伺いしたところ

 「非常に和気藹々とすすめられたので良かったです。人前で話すと緊張するけど、アットホー
  ムな雰囲気でそこまで緊張しなかった。」

と収録を楽しまれたご様子でした。

「あしたのSHOW」については、テレビ放送の時からご存知だったという監督。
というのも、監督の最新作の助監督さんが「あしたのSHOW」に出演したことがあり、それがきっかけでテレビ放送からWebに移行してからも、ずっと追いかけてくださっていたそうです。
そんな監督に「あしたのSHOW」について率直な感想を聞いてみました。
「試みとしてありがたいですし、リスペクトですね。」という一言。
その理由を監督にお伺いすると、インディーズ映画だったり短編映画は、長編と違って市場が多いとは言えないという現状について教えてくださいました。
とくに短編映画はショートショートフェスティバルや各映画祭などにしか上映する機会がなく、上映してくれる劇場も多くはありません。
短編映画を見る機会や伝える機会は海外では多いかもしれないけど、日本では珍しい。と話題になりました。

・大学の同級生に誘われて

映画は子供の頃から好きだったという一ノ瀬監督。
中でもチャップリンがお気に入りだったそうです。
しかし、当時の監督にとって映画は観るものであって撮るものではありませんでした。

そんな「観るものだった映画」が撮るものに変わったのは大学2年生の頃でした。
大学に進学し、同じ専攻で自主映画サークルに入っている同級生から映画の出演を頼まれたことが、最初のきっかけでした。
記念すべき最初の役はなんと銀行強盗。
しかも仲間割れして死ぬという、なかなかヘビーな役柄だったそうです。
にもかかわらず、一ノ瀬監督、死に方がうまいという理由で気に入られ、その後、何度か役者として撮影に呼んでもらうようになります。
そんな時に仲間から「お前も1本やってみたら」と声をかけられたことが、監督の映画人生のターニングポイントになったのです。

昔から物を作るのが好きだったという監督が、はじめて短編映画を製作した時に感じたのが「素手で触っている感じ」でした。
「それがすごい自分に合った。手袋越しじゃなくて素手で触っている感じがして、これが僕に一番いいものだって思ったんです。」とまるで昨日のことのように嬉しそうに話される監督からは本当に映画が好きなんだという思いが伝わってきました。

大学卒業後は「映画といえばアメリカ!」という考えからアメリカに渡られ、その後、日芸の大学院に進学。
こうして一ノ瀬監督は映画制作の道を歩み始められたのでした。

・人がいる場所には物語がある

「あしたのSHOW」でご紹介した『おわりはじまり』、そして次回作とご当地ものが多い監督。
あえて、ご当地ものを撮っていらっしゃるのか質問すると、とても興味深いお話が聞けました。

監督が映画のストーリーを考える際、「場所」から妄想して物語を広げていくことが多くあるそうです。
例えば坂を歩いていて、ふと自転車に乗る2人のイメージが湧き上がってきたら、そこからどんどん話を広げて物語を作っていきます。
そして、そうやってできあがった物語はインスピレーションをくれた坂のものであり、だからこそ完成した物語は、その坂や土地で撮るべきというのが監督のこだわり。

実際に過去の作品の舞台になった亀戸、そして川越にしても撮影するきっかけは、最初から計画したわけでなくひょんな偶然で決まったそうです。

「行ったところで、自分の中で、ハッと思ったところに物語が生まれたら、そこで撮るみたいな  
 感じですね。人がいる場所には物語がある、何かしら。」

次回、監督がどの土地で物語を紡ぐのか、お話を聞いているとだんだんと楽しみになってきました。

・「映画」が作業になっていることが多い

柔らかい語り口ながら、強い映画愛や製作のこだわりをお話してくださる監督に、今の映画業界の問題点や改善したい点についてお伺いしたところ、謙遜しながらも「作業になっていることが多いのが残念」とまず一言。

 「自主映画はブラックだったり、とんでもないこともあるかもしれないけど、まだ志強くやっ
  ている部分があると思う。でも仕事関係になると、どうしても時間もないし作業になってい 
  く。面白いことしよう、こう撮ろうと思っても、時間がないもんだから…作業になっちゃっ
  たら面白くない。こっちが面白いと思ってないと、やっぱりお客さんも面白くないんで。」

撮影が「作業」になっていると危惧した監督と知り合いのカメラマンの方を中心に「面白いことをしよう」と集まって撮影したのが、川越にあるテーラーをゲストハウスにリノベーションする過程を追ったドキュメンタリー作品でした。
実はこのドキュメンタリー作品の撮影がきっかけとなり、監督は川越に出会い、そして『おわりはじまり』が生まれたのです。

また「自戒込めて労働環境は変えなきゃだめ」と映画業界における労働環境やお金の問題、そして「映画業界における忖度」についても話題に挙がりました。

特に忖度の問題に関しては、一ノ瀬監督自身、思うところがたくさんあるようで、非常に貴重な意見が聞けました。
映画制作の場にスポンサーなどの忖度があるとクオリティが上がることはまずない。
そういうのを一回排除しないといけないという考えがあるとのことで、商品としてまず作って、これでどうですかと売ってみるというスタイルを試していきたいとおしゃっていました。
実際に11月に撮影される長編はスポンサーは一切なしで、自己資金と借入の資金で制作されるそうです。

「クリエイティビティというものを出しながらやっていきたいな、やれないかなと常々思ってい
 ます。」
とおっしゃられた一ノ瀬監督からは、忖度などに負けることなく自分が描きたいものは絶対に撮るという強い志が感じられました。

・次回作の舞台も川越

11月から撮影される一ノ瀬監督の新作長編は『おわりはじまり』と同じく川越が舞台となっています。
番組でもお話しされていたように、川越を舞台にしたジャズ映画とのことで『おわりはじまり』とは、また少し雰囲気の変わった作品になりそうです。
今回の長編作品は2019年11月に「いつやるかって言ったら、いつかは二度と来ないから今やろう」という思いに後押しされ動き始めた問いう経緯があるためか、新作の撮影について話される監督はとても幸せそうでした。

 「コロナウィルスで大変な今だからこそ必要な映画だろうなと思って、対策だけはしっかりして 
  やろうと思ってます。」

と新作に対する意気込みを語ってくださった監督。
しかし、実はすでに別の新しい作品の構想もあるとのことで少しお話を聞かせていただきました。
構想中の作品も、次回作と同じくジャズが大きく関係するため、次回作のキャラクターも登場する可能性もあるそうです。
そして『おわりはじまり』の主人公2人も、もしかしたら…とのことです。
インタビュー中には新作の構想について、もっと詳しくお伺いしたのですが、聞いているだけでもワクワクしてしまうような設定やストーリーでした。

穏やかに、でも鋭く映画についてお話ししてくださった一ノ瀬監督。
最新作の公開とそして構想中の作品の公開が今から待ち遠しいです。